たった一人のオリンピック
明日、冬季オリンピック大会が始まる。
山際淳司が、スポーツ・ノンフィクション作家としての地位を確かなものにしたものが「江夏の21球」というルポタージュだ。
その「江夏の21球」を収録した「スローカーブを、もう一球」という本に、「たった一人のオリンピック」という作品が収録されている。
主人公の母校は、筑波大付属高校。日本有数の進学校だ。多くのクラスメートと同様に、彼も東大を目指した。
一浪し、二浪し、三回目も失敗して、結局彼は東海大学に進んだ。
挫折感で無気力に日々を過ごし、気がついたら23歳になっていた。
ある日、彼は突然オリンピックに出ようと思いついた。
「もし、オリンピックにでれば」彼は思った。
「なんとなく沈んだ気分が変わるんじゃないか。ダメになっていく自分を救えるんじゃないか」
それから彼は、シングル・スカルという一人乗りのボート競技でオリンピックを目指すことになる。
まったくの素人である彼には、多くの困難が待っていた。
まず第一に、ボート競技者としては致命的な”痔主”だった。
1球ごとに目まぐるしく変わる登場人物の心理を鮮やかに描いた「江夏の21球」のようなスリリングさはないし、読んだ後に「さあ、頑張ろう」と元気をもらえる話でもない。
最初にこの話を読んだのは、もう20年ぐらい前になるけど、なぜか忘れられない話だ。